Azurblaue Phantasie



Novel


風のない夜、彼は自室の窓を大きく開けてぼんやりと外を眺めていた。普段より暗く深い闇に浮かぶ月は、青白い光を纏って悠然と佇んでいる。通常ならその横には、一回りほど小さな黄色い月が並ぶはずなのだが、今日はどうしてか姿が見えない。
片方しか昇らない月は、天変地異の前触れ。
古くからの言い伝えを思い出し、彼はぶるりと身を震わせた。なんと不吉なことだろう、明日は己の誕生日だというのに。彼は静かに窓を閉めると、すぐ側にあるキングサイズのベッドにぼふりと腰を下ろした。質の良いそれは、彼の体を柔らかく受け止める。彼は大きく伸びをして、ゆっくりと体を横たえた。顔を埋めて息を吸うと、昼間に干されていた名残か、太陽の香りが鼻腔をくすぐった。外の気配を感じて、彼は小さく笑みを零す。
明日。明日になれば、やっと外に行ける。
彼は度々、その瞬間を想像しては、一日千秋の思いで待っていた。それが、もう目の前に迫っている。嬉しくないわけがない。
大声をあげて笑い出しそうになるのを堪えて、彼はもぞりと寝返りを打った。ただひとつ、心に残る不安に気付かないようにしながら。


幸福の庭 …シェーンハイト家にヴィルの姉を名乗る女性が突撃してくる、一週間前の話である。

運命の輪 …仕方ないなぁ、と言うように青年は笑う。

籠の中の鳥…その問いに答えるものは、誰もいない。


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